﻿ひょんな話で参加となりました。ボンボヤージ。

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今作はJohnnyによるコラージュを含みます。
規定に従い、素材の補足は下記の通りです。


■loop_d*_**.png / dj_last_**.png（背景）
IncrediVFX
https://www.youtube.com/c/IncrediVFX

■op_b1-3_**.png / dj_inside_**.png
Tawfik - No Copyright Video
https://www.youtube.com/channel/UC8gn-objAom4DNDQIQ-G8Jw

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以下、たとえばそんなお話。
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■Prologue

　猫とはいったい何なのだろう。
　古いライブラリで見た『鉄棒する猫』は並ならぬ芸達者ぶりを伝え、『階段をくだる猫』は固体の概念をも覆した。やつらは人々の想像をたやすく凌駕し、それでいて平然と、ごく自然に生きている。
　繰り返す。猫とはいったい何なのか。
　分からないが、この小さな相棒と臨む旅はそんな疑問に向かい、歩んでいく──不思議な予感を孕んでいた。


■Trip Machine

　彼との出会いはひと月前。宇宙ステーション内の寂れたバーだった。妻の十三回忌を控え、独りでひっかけている所にふと現れた。振り向けばいつの間にかそこにいて、遠巻きに鋭い視線を送っていた。
「どうした？　メシなら他をあたりな」
　しっしと手を振り、紫煙をくゆらせる。しかし構わず彼は寄ってきて近くの椅子に跳び乗ると、茶トラの体をぐいと伸ばし、グラスの中をひと舐めした。
「おいおい、ロックとはいえ、バーボンだぞ」
　軽い気遣いをよそに、ふたくち、みくち……。氷を避けつつ器用に飲みくだす様が可笑しくて、久しぶりに……本当に久しぶりに愉快な気にさせてくれた。そしてあらかた平らげると、ぶるる、と震えて鳴いたんだ。にゃあ、と一言。それが自分にはこう聞こえた。

　──「もう一杯よこせ」と。

　以来、彼は勝手についてきて、自分も拒まなかった。おのずと第二のクルーになり、気の合う友となった。ただし毎度バーボンをせがまれては困るので、ためしにジンジャーエールを与えるとなかなかの反応で、愛機には山積みの常備となった。

　彼は自由だった。狭い船のどこにでも行き、転がり、眠った。神出鬼没なくせに曲を鳴らせば必ずそばにいて、波長に同期し、耳をひくつかせる様はあたかも充電計器（パルスメーター）のようだった。
　音がエネルギーになって久しい時代。それを取り込む彼もまた力の象徴だ。
「決めたよ。『ビート』──おまえの名だ」
　居候から相棒へ。彼は素知らぬ顔でそっぽを向いた。

　＊　　＊　　＊

　プレアデス星団に、ヒアデス星団。星々を渡りつつDJの腕を磨いた。命日が近かった。今年こそは納得するプレイを捧げたい。沸き立つ熱を、彼と共に……。
　そんなある日のことだ。偶然にも噂を聞いた。一連の散開星団には、幻の333番目があるという。
　メロッテカタログは245個。環状ステーションの総数であり、常識だ。だから最初は「何を莫迦な」と聞き流した。……だが、

　──そこのメリッサって女が美人らしくてなぁ、

　瞬間、体が勝手に動いた。男の胸ぐらをつかんでいた。
「詳しく……」
「だ、誰だアンタ……。知らねぇ。オレぁ聞こえただけで──ぅぐっ！　ほんとだ！　何も知らねぇよ！」
「…………」

　名前は存外、耳に残った。遺体が出るまで確定じゃない。そう思い続けたはずなのに、いつしか受け入れてしまった自分を心底恥じた。
　件の星は地図にない以上、ソナーで探るしかない。今の腕前なら期待は持てるが、最後は地力頼りだろう。
　トレーニングを経て、愛機のDJブースに陣取る。リズム隊が心地よく下地を刻み、彼もひくひく耳をそばだてる。たくさんの思い出を胸に……小さくぽつり。
「再起動（リブート）」

　……箱での経験が活きた。広大な仮想空間にて、臨機応変なプレイは多大なエネルギーを生み出し、意識を遠く、どこまでも飛ばすことができた。
　現実味のない333（ナンバー）。それでも手がかりには違いない。
　やがて見つけたそれらしき場所は、暗く深い、奇妙な緑色をしていた。
　航行モードに切り替える。ドッキング完了。いざ、待ちわびた宇宙へ──
「来い！　ビート！」
　彼は踊るように跳び上がった。無重力を楽しんでいた。

　ワープゲートをくぐるや、世界は万華鏡のように歪み、流れていく。グルーヴゲージは好調。スタミナも充分だ。これならいくらだって回していける。
　だが、余裕も束の間。何度目かのジャンプ後だ。不意にアラートが鳴り響いた。
　不協和音。タキオン減衰。耐熱限度と退避勧告。マスク内部に様々な情報が浮かび、警告する。さなか、割り込んだアノニマス気取りが仕草だけでけらけら笑う。一方的なハッキングを受けながら愛機は暴走の末にゲートを飛び出し、直後デブリにぶつかり、半壊した。

　……わずかな出血で済んだのは、ひとまずの幸いか。
　それでも状況は酷かった。推進力のほとんどを失い、からがら身を守りつつ、気付けば近くの星に不時着していた。
　衛星ふたつ浮かぶ夜空。
　岩と砂との入り組んだ大地。
　空気があるのは開拓の証拠だが……人の気配はない。ここはスクラップ場だろうか。柔らかな光が降りそそぐ中、複雑な陰影が広がっている。今や懐かしい万能文化社のロボットたちが、凍てついた時間を物語っている。
　その上に猫がいた。逆光のシルエットだが、すぐに彼と分かった。
「ビート！」
　思わず駆けだす。しかし勢いはみるみる落ち、喜びも消えた。
　彼も【壊れていた】。それが適切かは分からないが、青白い光を帯びながら垣間見える何か──基板、配線、白銀の骨格は、ただ異質で機械的で、この場所でさえ際立って見えた。
　彼が身震いする。いつものようにそっけなく歩きだす。頼りない足取りだが迷いはない。だから自分もためらわず続き……導かれた先には一隻の宇宙船があった。
　遠目に、まさかとは思っていた。
　すっかり割れたマスクを脱ぎ、辺りに捨てる。こみ上げるすべてに耐え、おずおずと触れるそれは十三年前──あの日、送り出した妻の船。……その残骸だ。
　右手を胸に、深い祈りをようやく捧げた。
「……ありがとう、ビート……」
　静寂に独り。振り返らなくても分かる。もう鳴き声が返らないことを。
　船に背を預け、座り込む。最後の煙草に火をつける。巡りゆく情景とをゆっくり味わいながら、尽きるまで、煙の果てをじっと見つめていた。


■Epilogue

　……さて、話には続きがある。無駄に死んではと、そりゃあ抵抗ぐらい試みる。
　妻の難破船だが、非常用バッテリーは生きていた。か細い救助信号に──あるいは彼女自身に救われ、今に至る。
　壊れたビートは治せなかった。自分だけじゃない。圧倒的な技術差がこの時代の理解を超えていた。そのうえ、基板に走るなぐり書きが新たな疑問を植えつけた。

　──若き俺よ、メリッサを救え。

　見慣れた筆跡は解析とも一致する。……どういう事か。仮に命じたのが自分なら、彼はこの手で作られ……つまりは未来から跳んだというのか。
　流していた曲が終わり、一転してクラシックになった。『交響曲第5番 ハ短調 作品67』……ベートーヴェンだ。
「運命は……かく扉を叩く」
　すっと顔を上げた。ジンジャーエールの小瓶をつかみ、一気にあおった。
　……ビートを治そう。腐っても技術屋だ。彼から学び、歩めばいい。その先に真の未来があるのなら、むしろここが始まりだ。

　のちに生まれる結社は『ニンフ』。
　猫と蜜蜂を旗印に、新世界を切り開く──。


　-THE END-
